消防職員のための接遇研修を実施|福岡県中間市消防本部
9月某日、福岡県中間市消防本部の職員を対象とした接遇研修を講師として担当させていただきました。
この講師依頼については、5月頃にお話をいただいていたものです。
私は現在、防災を専門に講師として活動しており「接遇』に関しては専門外です。
なので、丁重にお断りをしようと一度は考えましたが、ご依頼をいただいた担当の方とお話をする中で
「これまでの経験談や管理職員として実際に対応したクレーム処理、そして今、民間人から見て思う公務員」などをテーマであれば、お話ができればと思い、少し整理する時間をいただき引き受けさせていただきました。
あえて言うなら、実際に消防士を30年間経験しているのでその目線を大切に内容を考えました。
このことで、『接遇』を専門とするマナー講師の方とは違ったアプローチができるのではと考えたからでもあります。
さて、消防職員のための接遇研修の内容は以下のとおりです。
- 接遇の基本原則
- 接遇と公務員の関係性
- クレーム対応時の接遇
- 消防に求められる接遇力
それでは、各項目の概略を説明していきます。
接遇の基本原則
接遇の基本原則では、そもそも接遇とは何なのか?
この問いについては、私も依頼を受けるまでは明確な答えがありませんでした。
ネットで検索すると色々出てきましたが、個人的にフワッとしたものしか見つからない印象でした。
なので、この研修では統一して『おもてなしの心をもって接する』としました。
また、『接客』と『接遇』の違いについて説明しました。
それから、接遇には基本の5原則があります。
それは『挨拶』『態度』『身だしなみ』『言葉遣い』『表情』です。
制服職員である消防士の皆さんの『見だしなみ』や『挨拶』について気をつけるべきポイントを説明しました。
また、接遇における言葉使いは、敬語を基本に「はっきりと」と言われています。
しかし、災害現場活動において、特に救急現場においてたまに見受けるのが『タメ口』です。
この『タメ口』について、職員の皆さんと意見を交わしました。
『タメ口』については、『親近感を持たせる』メリットもある反面、デメリットもあり「相手を軽く見ているような印象を与えてしまう」こともある為、リスクがあるなら使わないよう説明しました。
また、親近感を持たせるためには『表情』で補うことができることもお話しさせていただきました。
この表情は、119番入電対応時の実際に相手に顔が見えない場合でも、表情は声に乗るものと私は考えており、そのようなお話もさせていただきました。
接遇と公務員の関係性について
接遇と公務員の関係性については、民間と公務員の接遇に対する違いに触れ、その上で公務員としての必要な接遇ポイントを説明しました。
民間企業は、接遇を向ける相手(お客様)は限定的です。
理由はその企業が提供するサービスや商品、価格、年齢や性別によってターゲット(顧客)が絞られます。
これは、ビジネスの世界ではペルソナ設定といい、非常に重要視されています。
要は、そこに向けた接遇を民間企業は徹底している訳ですね。
また、接遇の代表格といえるCA(客室乗務員)や星野リゾートのホテルマン、高級車ディーラーのレクサスの接遇に対する考え方や教育方法の情報も含めお話しさせていただきました。
一方、公務員は国民全体の奉仕者であり、相手を選ぶこともできません。
当然ですが、乳児から高齢者、男女だけでなくジェンダーの問題にも配慮が必要です。
時には、泥酔者や反社会勢力の方を相手に仕事をする時もあり、マルチカルチャーに対応しなければなりません。
その上で、公務員は多様なバックグランド持つ住民に対して一定の配慮を持って挑むことを求められています。
このように考えると公務員の接遇って難しいですよね・・・
しかし、接遇研修などにおいては、公務員よりも民間企業の方が力を入れている印象があります。
確かに、民間企業は、接遇が即、利益に直結することもありますからね。
ただ、広く万人に対応する必要があると言う意味では、公務員の接遇って難易度が高い気がしませんかね・・・
クレーム対応時の接遇
クレーム対応時の接遇については、前職での経験を踏まえ、クレームを受けるプロセスやテクニックなどをお話しさせていただきました。
クレーム対応は、苦情処理的なイメージがあります。
しかし、クレームとは本来「要求する」「主張する」という意味なんですね。
なので、クレームを苦情として受け取るとマイナスの余計な応対業務ともとれますが、「ご意見」として積極的な意味を持たせて受け取ると、相手の「生の声」や社会の変化に対する貴重な意見が隠れていることもあるので注意が必要と思っています。
また、このクレーム対応は、相手の感情をコントロールすることが大切です。
これには『詫び言葉』が前職時代に非常に有用でしたので、このお話をさせていただきました。
消防に求められる接遇力
ここまでは、執務中の接遇のお話で、ここからは災害時の接遇について説明しました。
災害時に消防士が接遇を向ける相手は、被災していることもあり平常時の心理状態でないことが多いです。
このことを踏まえ、防災心理学的な要素も取り入れながら、住民の災害時の心理状態などを説明しました。
消防士は、災害時には緊急事態に対応する為、、一般的な接遇の概念とは少し異なる側面があると私は考えています。
消防士は、災害や緊急事態に対応する専門職であり、人々の安全と生命を守る役割を担っています。
そのため、消防士接遇は単純に礼儀正しい対応だけでなく、迅速かつ効果的な行動が求められると思っていて
『迅速な対応』冷静な判断力『コミュニケーション能力』『リーダーシップ』などのポイントを接遇の観点から説明し、実際に災害現場で活かせる接遇力を身につけるために何をすべきかをお話しさせていただきました。
アンケート結果
今回、受講された職員の皆さんにご協力いただいたアンケート結果(抜粋)を掲載させていただきます。
20代(世代別に掲載しています)
問 4 接遇についてご意見があればお聞かせください。
- 接遇、すごい大事だと感じた。
- 話の中で出てきたタメ口について、個人的にはリスクが多いので、タメ口は使わないようにしています。
問 5 研修内容についてご意見、ご感想をお聞かせください。 - 自分自身接遇の5つの基本原則ができていないと感じました。
- 最後に認知バイアスという言葉がありましたが、自分は大丈夫だからと言い聞かせて、考えることをしませんでした。今回の講義を経て、とても考えるきっかけとなりました。
- 冷静になりきれない所があるので、 傷病者を落ち着かせるためにも参考になった。
- とても分かり易く、勉強になりました。
30代
問 4 接遇についてご意見があればお聞かせください。 - 5原則について、社会人として当然のことなのですが、(勤続)年数が増えるとなあなあになるので、今一度引きしめようと思った。
- 接遇は本当に大切だと改めて感じました。今後も、相手への「おもてなし」の心を持って接していきたいと思います。
- 職務を果たすために、接遇の重要度が分かりました。大変分かり易く、おもしろく講義いただきありがとうございました。
- タメ口に対する考えを再認識できた。
問 5 研修内容についてご意見、ご感想をお聞かせください。 - 言葉使いの大切さを改めて考えさせられました。
- 自分自身、現場対応中にタメ口になるときがあるので、今後気を付けようと思った。
- 苦情に対する考え、言葉選びについて指導に活かせて行けたらと思いました。
- 大変分かり易い研修でした。消防との関連付けもあり、分かり易かったです。
- クレーム対応について、苦情処理ではなく相手の意見を聴くという考え方がとても参考になりました。
- 同業者だったからこそ、受け入れやすい講義だったと思う。ありがとうございました
40代
問 4 接遇についてご意見があればお聞かせください。 - ファーストインプレッションが大事、日頃から誰に対しても同様の態度で接することができるようにする。
- 改めて接遇の大切さを感じました。
- 相手の気持ち、考えに重点を置いて接していますか。その他の要素もたくさん必要なことだと改めて考えさせられました。
- 状況により使い分けることが出来る能力を身に付けなければならないと感じました。
- 聞けば理解できることであっても、改めて認識を深めることが出来た。
問 5 研修内容についてご意見、ご感想をお聞かせください。 - 接遇という言葉で知ることはあっても、消防としての接遇と考えることはありませんでした。ありがとうございました。
- 研修のやり方も参考になりました。簡単明瞭
- 消防に特化した接遇研修でした。ありがとうございました。
- 消防を退職され、現在での目線での講義が非常に為になりました、ありがとうございました。
- 今後は今以上に市民に対する接遇をしっかり対応していきたいと感じました。
- 状況に応じた接遇力、まさにその通りだと感じました。
- 消防側からの視点での話はとても為になりました。
- コミュニケーションは大事なスキルであるので、今後組織で共有して深めていきたいです。
50代
問 5 研修内容についてご意見、ご感想をお聞かせください。 - すごく分かりやすく、消防に特化してよかった。
アンケート全体の回答については、以下のリンクから確認ができます。
興味のある方は覗いてみてください。
まとめ
今回、この研修の準備をするにあたり正直、私自身も多くの学びがありました。
公務員を早期退職し、今後民間人として生きていく私にとっても貴重な経験をさせていただいたと感謝しております。
また、90分の研修時間でしたが、職員の皆さんも熱心に聴講いただき講義しやすい環境にご協力いただいたことや、今回の機会をいただいた中間市消防本部さまに本当に感謝しております。
身吉行政書士事務所では、元消防士(在職期間30年)がこれまでの経験をもとに、九州、福岡県を中心に講演依頼を受け付けています。
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